残念名人戦
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隣の隣の隣の隣の隣の隣の隣のそのまた隣くらいの町のお祭りがあってね。関係者の人に誘われたんすよ。その関係者の人、以前一度だけお仕事っぽいのでご一緒したことがあったんですけどね。
あー奥野さん、将棋得意だったよね。
お祭りでさ、縁台将棋やるんだよ。よかったら相手役やってよ。
(ぬ?お仕事依頼?)
大丈夫。ギャラは出ないけどビールいくらでも飲めるから。
屋台で売ってるからね。
(飲めるって俺が払うのかよ!それ「いくらでも飲める」っていわないよ!)
浴衣姿のお姉さんもたくさん来るよ!
(いや、将棋指しには来ないでしょ。そもそも大きな花火イベントのある日でしょ!)
じゃ、よろしく!15時から20時まで。屋外の仮設テントの中で、冷房ないけどね!
(暑いよ。おっさん虐待かよ。)
はい。かしこまりました!
(…今度仕事回してよね!)
なんだか分からないけれど、将棋を指す前から敗色濃厚だ。濃厚民族。
14時半過ぎにはスタンバッた。ボクガンバッタヨ。
他に何名かいた指す担当の1人と戯れに指していると、さっそく覗き込むちびっこが。指したいみたいだ。
坊や、指したいの?
うん。おじちゃんと指したい!
(おーじーちゃーんー!?)
自分でおっさんって言ったりすることあるけど、子供に言われたことないぞこの野郎!これ結構ショックだな!
僕は血縁上、甥や姪はいない。だからそういう意味でのおじさん、は言われたことがない。まあ子供と普段接しないから、彼らの心からの言葉を受ける機会がないんだよね。
子供におじちゃんって言われるということは俺はリアルおじちゃんなのか。
認めたくないモノだな、自分自身の老い故の老け顔というモノを。
この日、僕が相手したのは全部ちびっ子。大きくても中学1、2年生くらいだったと思う。10人くらいかなあ。「もう一回!もう一回!」って子が多かったのと僕1人で同時に2人の子供の対局相手をしていたり(いわゆる多面指しってやつね)もしたので、全部で40〜50番位は指したんじゃないかな。どうぶつしょうぎも含めて全部勝ったけどね。いやほんと、ちびっ子相手なので自慢にもならないんですけどね。
全部勝ったけどね。
中には筋のいい子もいたりしてね。しっかりよく考えて指すんだけれど、こればかりは力量の差で僕が勝っちゃったら、終局後に大きな涙の粒をポロポロ落としてね。泣きじゃくるわけ。
お父さんとお母さんに「ほら、泣かないの」って言われて、つれられて帰ったけど。
僕も将棋が強くなる段階でそういうことあったなぁ。
負けても悔しくなくなった頃から、棋力が頭打ちになったなあ。
僕も勝負の世界に生きるおっさんだからさ。対局は全力。大人気ないとか言うな。実際大人げないけどな。
終わってからは頭を撫でて強かったぜ!って言うんだけど、泣きじゃくる彼には伝わってない。
いやほんと、大人気なくてすまん。うまく緩めるのって難しいんだよ。
大人げなく全部勝ったけどね。
熱中症対策のため水分を取ろうと思ったビールでは却って身体が熱くなり、少年相手にすこし間違えたときはリカバリーしようと脳みそがぶんぶん回るけれど、僕という人間の機能上、廃熱処理が無かったり。
結構5時間近く将棋を指すのって疲れるんだよね。
高校生の時とかは将棋友達と旅行に行って、夜、徹夜で将棋指したりしてたもんだけどね。棋力の離れた子供と5時間将棋指すのも、おっさんとなった今では大変だ。
それでもボクはがんばったよ。繰り返し対局をおねだりするお子さんを見守るお母さんが美人だったりすることもあったわけで、
よーしお母さんにいいところ見せちゃうぞ!お子さんに優しく指導したりしちゃうぞ!
とか思って頑張りました。
そのお母さんのすぐ後ろにはお父さんがいたけれど。
結局、片付けまで含めると終了したのがおよそ21時。6時間半のある意味ボランティア活動でございました。
隣の隣の・・・町の地域貢献をしながら体内のブドウ糖激減の一日が終わっていきましたよ。そして全勝で乗り切りましたよ。今日だけならボクは名人だ。相手は全部将棋が発展途上のちびっ子ばかりだったけれど。
ほんと、こんど、仕事ください。ぼくおじちゃんだけど頑張りますから。できれば将棋の仕事ください。ぼくリアルおじちゃんだけど頑張りますから。