強冷房車
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夏は、暑い。
今年の夏は雨が多くて冷夏気味でもあったが、それでもまあ、他の季節よりは暑い。
電車の弱冷房車に軽い怒りを感じるくらいの暑がりの僕は、よく乗る路線ではどこが弱冷房なのかはよく心得ていた。
ああ、はやく強冷房車ができないかな。
そんなふうに思っていたある日、運良く混雑気味の電車で座ることができた。
ちょっとだけ荷物があったこともあり、はー助かった。どっこいしょと腰掛ける。
一息ついた頃、何か冷房とは異なるひんやりに気づいた。
語彙が豊富な僕にはわかったね。
これは
涼しい
ではなく
冷たい
だと。
明らかに右太ももの裏から冷たさを起因とするひんやり感が僕の神経を撫でてきている。スリ、と。スリスリ、と。
看過できない。なぜって、冷房の効いただけの車両に冷たいという形容詞はそぐわないからだ。
太ももをジーパンの上から触ってみる。
しなっ。
湿っている。
あれ、鞄のペットボトルから漏れたか?
いや、鞄には今日はドリンクを入れてないぞ。
なんだ。なんだ。
立ち上がってみた。
シートに触れる。
うん。
湿ってる。
そこで初めて足元を見てみたね。
なんとまあ、レモンティーのような色の小さな水たまりが僕の席の前にできていたよ。なんだこれは!
え?まさか?
ズボンに触れ、シートに触れた手野匂いを恐る恐る嗅いでみた。
無臭だった。
なんだこれは。
そんなこんなしているうちに最寄り駅についた僕は、ほっと一息ついたはずの心臓が意味もなくバクバクしていることにびっくりしていた。
とりあえず降りて駅員に報告はしていたんだけれどね。何だったんだあれは。
お茶をこぼしたのか、それとも前の乗客の「そそう」なのか……。
その心のヒヤリ感で、十分な強冷房を味わえた。